【C#】DynamicObjectを継承して実行時にプロパティを追加できるクラスを実装する

2025年12月6日

C#は静的型付け言語ですが、dynamicキーワードとSystem.Dynamic.DynamicObjectクラスを利用することで、実行時に動的にプロパティを追加・取得するクラスを作成できます。

これは、JSONのようなスキーマレスなデータを扱う場合や、コンパイル時には構造が決定していないデータを柔軟に操作したい場合に有効な手法です。ここでは、辞書（Dictionary）を内部ストレージとして持ち、プロパティ構文（obj.Property = value）でアクセスできる動的なデータクラスの実装方法を解説します。

DynamicObjectの概要

DynamicObjectクラスは、動的操作の動作を定義するための基底クラスです。このクラスを継承し、以下のメソッドをオーバーライドすることで、動的な振る舞いをカスタマイズできます。

TrySetMember: プロパティへの値の代入時に呼び出されます。
TryGetMember: プロパティからの値の取得時に呼び出されます。

実践的なコード例：動的プロパティストアの実装

以下のコードは、DynamicObjectを継承し、任意のプロパティを自由に追加できるDynamicPropertyStoreクラスの実装例です。内部的にはDictionary<string, object>でデータを管理しています。

using System;
using System.Collections.Generic;
using System.Dynamic;

namespace DynamicProgramming
{
    class Program
    {
        static void Main()
        {
            // dynamic型としてインスタンスを生成します。
            // これにより、コンパイラの型チェックをバイパスし、実行時にメンバー解決が行われます。
            dynamic userProfile = new DynamicPropertyStore();

            // 1. プロパティを動的に設定（TrySetMemberが呼ばれる）
            userProfile.FullName = "佐藤 一郎";
            userProfile.Address = "東京都千代田区";
            userProfile.BirthDate = new DateTime(1990, 5, 15);
            userProfile.Age = 33;

            // 2. プロパティの値を取得（TryGetMemberが呼ばれる）
            Console.WriteLine($"名前: {userProfile.FullName} ({userProfile.FullName.GetType().Name})");
            Console.WriteLine($"住所: {userProfile.Address}");
            Console.WriteLine($"誕生日: {userProfile.BirthDate:yyyy/MM/dd}");

            // 3. 独自メソッドの利用（dynamic型でもキャストすれば通常のメソッドを呼び出せます）
            // または、インターフェースを介して呼び出す設計も可能です。
            var store = (DynamicPropertyStore)userProfile;
            if (store.HasProperty("Address"))
            {
                Console.WriteLine("「Address」プロパティは定義済みです。");
            }
        }
    }

    /// <summary>
    /// 実行時にプロパティを動的に追加・取得できるクラス
    /// </summary>
    public class DynamicPropertyStore : DynamicObject
    {
        // プロパティ名と値を保持する辞書
        private readonly Dictionary<string, object> _properties = new Dictionary<string, object>();

        /// <summary>
        /// プロパティに値を設定する際に呼び出されます。
        /// </summary>
        /// <param name="binder">設定しようとしているメンバーの情報</param>
        /// <param name="value">設定する値</param>
        /// <returns>処理が成功した場合はtrue</returns>
        public override bool TrySetMember(SetMemberBinder binder, object value)
        {
            // プロパティ名をキーとして辞書に値を保存
            // 既に存在する場合は上書き、なければ追加されます。
            _properties[binder.Name] = value;
            return true;
        }

        /// <summary>
        /// プロパティから値を取得する際に呼び出されます。
        /// </summary>
        /// <param name="binder">取得しようとしているメンバーの情報</param>
        /// <param name="result">取得された値（出力引数）</param>
        /// <returns>値の取得に成功した場合はtrue</returns>
        public override bool TryGetMember(GetMemberBinder binder, out object result)
        {
            // 辞書から値を取得を試みる
            return _properties.TryGetValue(binder.Name, out result);
        }

        /// <summary>
        /// 指定されたプロパティが定義されているか確認します。
        /// </summary>
        public bool HasProperty(string name)
        {
            return _properties.ContainsKey(name);
        }
    }
}

実行結果

名前: 佐藤 一郎 (String)
住所: 東京都千代田区
誕生日: 1990/05/15
「Address」プロパティは定義済みです。

技術的なポイント

1. TrySetMemberの実装

binder.Nameには、アクセスされたプロパティ名（例：”FullName”）が入ります。これをキーとして内部のDictionaryを更新することで、動的なプロパティ追加を実現します。戻り値としてtrueを返すことで、ランタイムに対して「処理が正常に行われた」ことを伝えます。

2. TryGetMemberの実装

値を取得する際は、outパラメータであるresultに値をセットし、戻り値としてtrueを返します。もし辞書にキーが存在せず、値を返せない場合はfalseを返すと、呼び出し元でRuntimeBinderExceptionが発生します（C#のデフォルトの挙動）。

3. dynamic変数の利用

このクラスを利用する際は、変数の型をdynamicにする必要があります。

DynamicPropertyStore obj = new DynamicPropertyStore();
obj.Name = "Test"; // コンパイルエラーになります（DynamicPropertyStoreにNameプロパティがないため）

dynamic obj = new DynamicPropertyStore();
obj.Name = "Test"; // 正常に動作します（TrySetMemberが呼ばれる）