米国株投資などで配当金(米ドル)を受け取ったものの、その使い道に迷い、証券口座にそのままにしている方も多いのではないでしょうか。
インフレや為替変動のリスクを考慮すると、米ドルを遊休資産にしておくのは効率的とは言えません。その有力な活用先として、米国の債券市場全体に手軽に投資できるETF「BND」が注目されています。
本記事では、この代表的な債券ETFであるBNDの基本的な特徴から、楽天証券などでの具体的な買い方、そして賢い運用方法までを詳しく解説します。
BNDとは?米国の債券市場全体に投資するETF
BNDの正式名称は「バンガード・米国トータル債券市場ETF(Vanguard Total Bond Market ETF)」です。その名の通り、米国の債券市場全体をカバーする投資信託(ETF)です。
BNDの主な特徴
- 究極の分散投資 BND 1本で、米国の投資適格債券(信用格付けが高い債券)市場全体に投資できます。米国債、政府機関債、投資適格社債、モーゲージ担保証券など、10,000銘柄を超える債券に分散投資するため、個別の債券がデフォルト(債務不履行)するリスクを極めて低く抑えられます。
- 非常に低いコスト 運用会社であるバンガード社の商品は低コストで知られていますが、BNDも例外ではありません。経費率(信託報酬)は年率0.03%(2024年時点)と、非常に低い水準に設定されています。
- 毎月の分配金(インカムゲイン) BNDは、組み入れている債券から得られる利息を原資として、毎月分配金を支払います。安定したインカムゲインを期待できるため、定期的な収入源としても魅力的です。
AGGとの違いは?
BNDとよく比較されるETFに、ブラックロック社が運用する「iシェアーズ・コア 米国総合債券市場 ETF(AGG)」があります。 結論から言うと、BNDとAGGに大きな違いはほとんどありません。 どちらも米国の総合債券市場に連動し、経費率も同水準(0.03%)です。運用会社やブランドの好みで選んでも問題ないと言えるでしょう。
BNDのパフォーマンスと役割
株式ETF(S&P500など)が長期的に右肩上がりを目指すのに対し、BNDは異なる値動きと役割を持ちます。
疑問:S&P500のように右肩上がり?
BNDの価格は、S&P500が連動する「企業の成長性」とは異なり、主に**米国の「金利」**に連動します。
- 金利が上昇する局面:新しく発行される債券の金利が上がるため、既存の債券の魅力が相対的に下がり、BNDの価格は下落します。(例:2022年〜2023年の急激な利上げ局面)
- 金利が低下する局面:既存の金利が高い債券の価値が相対的に上がり、BNDの価格は上昇します。
このように、BNDの価格チャートは常に右肩上がりではなく、金利の波に応じて上下するのが特徴です。
BNDの真価:「守り」の性能とトータルリターン
BNDは「ディフェンシブ資産(守りの資産)」と呼ばれます。その真価は、経済ショック時に発揮されます。
- ショック時の強さ:コロナショックやリーマンショックのような経済危機で株価が暴落する局面において、BNDは「安全資産」として買われ、価格が安定または上昇する傾向がありました。
- トータルリターンで見る:BNDの評価は、価格変動(キャピタルゲイン)だけでなく、**「毎月の分配金を含めたトータルリターン」**で見ることが重要です。価格が下落した局面でも、受け取った分配金を再投資することで、長期的には安定した資産成長が期待できます。
配当金(ドル)でBNDに投資するメリット
米国株の配当金などで得たドル資産をBNDに投資することには、明確なメリットがあります。
- 遊休資産(ドル)の有効活用 証券口座で金利がつかないドルを、毎月分配金を生み出す資産(BND)に変えることができます。
- 為替手数料が不要 すでに保有している米ドルで、ドル建てのBNDを購入するため、円からドルへの両替手数料(為替スプレッド)がかかりません。 これは非常に大きなコストメリットです。
- ポートフォリオの分散 一般的に株式と債券は異なる値動きをする傾向があります。値動きの激しい株式(個別株)と、安定志向の債券(BND)を組み合わせることで、資産全体のリスク(価格変動)を低減させる効果が期待できます。
【実践】BNDの買い方ガイド(楽天証券の例)
BNDはどこで購入できるのでしょうか。楽天証券を例に解説します。
1. どこにある?:「米国株式」コーナー
BNDは「債券」ですが、ETF(上場投資信託)として株式市場に上場しているため、購入時は「債券」コーナーではなく**「米国株式(海外ETF)」**のコーナーで取り扱われています。
最も簡単なのは、ログイン後の検索窓で、BNDのティッカーシンボル(銘柄コード)である「BND」と半角で入力して検索することです。
2. NISAは使える?:「成長投資枠」が利用可能
NISA口座での取り扱いは以下のようになっています。
- 「NISAつみたて投資枠」:利用不可
- 「NISA成長投資枠」:利用可能
NISAの非課税メリットを活かしてBNDに投資する場合は、「NISA成長投資枠」を選択してください。
3. 決済時の便利機能:「米ドルMMFを含める」とは?
注文画面で「米ドルMMFを含める」というチェックボックスがあります。
- 米ドルMMFとは:米ドルで運用される、安全性が極めて高い投資信託のことです。銀行の普通預金より高い金利がつくため、ドルの「賢い置き場所」として機能します。
- チェックするメリット:ここにチェックを入れておくと、BNDの買い付け時に手持ちの米ドル現金が不足していても、自動で米ドルMMFを売却して決済代金に充当してくれます。非常に便利な機能ですので、チェックを入れておくことを推奨します。
【重要】BNDの最適な運用方法とは?
BNDを購入した後、どのように運用していくのが良いでしょうか。
疑問:配当金をもらうたびに買うのはどう?
「配当金(分配金)が支払われるたびに、その資金でBNDを買い増していく」という方法は、非常に合理的で優れた戦略です。
これは、投資する金額は変動しますが、「タイミングを気にせず、定期的に買い付けを行う」という点で、「ドルコスト平均法」とほぼ同様の効果が期待できます。購入価格が平準化され、高値掴みのリスクを減らすことができます。
債券投資はタイミングが難しい
BNDの価格は金利に左右されますが、将来の金利動向を正確に予測するのはプロの投資家でも困難です。だからこそ、タイミングを測ろうとせず、**「機械的に買い続ける」**という戦略が有効になります。
最強の運用法:「自動分配金再投資(DRIP)」
さらに効率的な方法が「自動分配金再投資(DRIP)」です。
これは、BNDから支払われた分配金(税引き後)を使って、自動的にBNDの株式を買い増してくれる設定です(楽天証券など主要ネット証券で設定可能)。
- 1株に満たない端数でも買い付けできるため、分配金を無駄なく再投資できます。
- 一度設定すれば、あとは完全に放置でOKです。
- 複利効果(利益が利益を生む効果)を最大限に活かせるため、手間をかけずに資産を育てたい場合に最強の運用法と言えます。
(補足)積立日の設定はいつが良い?
もしBNDを定期的に積立購入する場合、「積立日はいつが良いか?」という疑問が浮かぶかもしれません。
「1日は株価が上がりやすいから避けるべき」といったアノマリー(経験則)もありますが、30年以上の長期の積立投資において、その日付によるパフォーマンスの差はごくわずかであり、気にする必要はほとんどありません。
日付にこだわるよりも、ご自身の給料日の数日後(例:25日が給料日なら27日)に設定するのが最も合理的です。 これにより、資金が確実にある状態で投資を実行でき、無駄遣いを防ぐ「先取り投資」を実践できます。
まとめ
BNDは、低コストで米国債券市場全体に分散投資できる、非常に優れたETFです。株式とは異なる値動きでポートフォリオを安定させ、毎月の安定した分配金も期待できます。
- 配当金などで得た米ドルの再投資先として最適。
- NISA「成長投資枠」も活用できる。
- 運用は「自動分配金再投資(DRIP)」や「定期積立」を活用し、タイミングを測らないことが成功の鍵。
眠っているドル資産がある場合は、BNDで効率的に運用し、資産全体の安定性を高めることを検討してみてはいかがでしょうか。
