2025年5月、金融庁が発表した内容が証券業界を揺るがせています。今年1月から4月末までのわずか4か月間で、オンライン証券口座の乗っ取りによる不正取引額が3,049億円に達したというのです。この金額だけを見れば、多くの方が「非常に大きな問題だ」と感じるのではないでしょうか。しかし、実はこの数字は日本の証券市場全体の取引額と比較すると、**たったの0.00056%**に過ぎません。
では、この「0.00056%」という割合が意味するものは何か。本記事では、具体的な数値を交えながら、日本の証券市場における不正取引の規模と、その背景、そして我々がとるべき対策について丁寧に解説いたします。
不正取引額と市場全体の規模
まず、金融庁が公表した数字を改めて確認しましょう。2025年1月から4月末までに発生した不正取引の件数は3,505件。取引額は買い付け額が約1,437億円、売却額が約1,612億円となっており、合計で約3,049億円という莫大な金額に上っています。
一方、2024年の日本全体の証券市場における取引額は以下の通りです。
- 現物株式市場(東証プライム等):約1,254兆円
- デリバティブ市場(先物・オプション等):約4,156兆円
- 合計:約5,410兆円
この数字と比較した場合、3,049億円という不正取引額は、市場全体のわずか0.00056%に相当します。これは1兆円の取引に対して、約56万円が不正に使われた計算になります。
それでも深刻な問題である理由
数字だけを見れば、「全体に比べれば微々たるものだ」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、被害額が3,000億円を超えているという事実は極めて深刻です。なぜなら、これは企業ではなく個人投資家の資産が標的になっているからです。
証券口座の乗っ取りは、偽のログインページやフィッシングメールなどを通じて行われるケースが多く、被害者は知らぬ間に自身の資産を不正に操作されてしまいます。特に高齢者やネットリテラシーの低い層が狙われる傾向にあり、社会全体の信頼性にも関わる問題です。
どの証券会社が被害に遭っているのか
今回の発表では、被害が確認された証券会社として、以下の9社が挙げられています。
- 楽天証券
- SBI証券
- マネックス証券
- 松井証券
- 三菱UFJ eスマート証券
- 野村證券
- 大和証券
- SMBC日興証券
- 三菱UFJモルガン・スタンレー証券
いずれも大手証券会社であり、「安心だから」と口座を開設した方も多いはずです。ところが、今回の事案を受けて、多くの企業がセキュリティ強化と利用者への注意喚起を行っています。
我々がとるべき対策とは
このような事態を受けて、私たち個人投資家ができる対策としては、以下の点が挙げられます。
- メールのリンクを直接クリックしない
- 2段階認証の設定を必ず行う
- 定期的にパスワードを変更する
- 証券会社の公式アプリを使用する
- 不審な取引がないか、常に確認する習慣をつける
また、少しでも不審な点があれば、すぐに証券会社に連絡を入れることが重要です。万が一、被害に遭っても早期の対応が被害を最小限に抑える鍵となります。
おわりに
不正取引額「約3,000億円」という数字は、証券市場全体の規模から見れば「0.00056%」というごくわずかな割合です。しかし、その背景には実際に被害を受けた数千人の投資家が存在しており、数字以上に大きな問題であることは間違いありません。
オンライン取引が主流となる現代において、「自分の資産は自分で守る」という意識が何よりも重要です。証券口座の安全性を見直し、今一度セキュリティ対策を確認してみてはいかがでしょうか。