目次
- はじめに
- Windows 10 サポート終了の概要
- サポート終了後に想定されるリスク
- セキュリティリスク
- コンプライアンス違反の可能性
- アプリケーション互換性低下
- ブラウザ・クラウドサービスの将来的な非対応
- ハードウェア・周辺機器のドライバ非対応
- 証明書・暗号化関連の更新停止
- Windows 7 で実際に起こった代表的な脆弱性
- EternalBlue(CVE-2017-0144)
- BlueKeep(CVE-2019-0708)
- CVE-2020-0986(Operation PowerFall)
- PrintNightmare(CVE-2021-34527)
- リスクを抑える四つの選択肢
- まとめ
- 参考資料
1. はじめに
2025 年10月14日(米国太平洋時間)、Windows 10(Home/Pro/Enterprise など一般向けエディション)はマイクロソフトのセキュリティ更新と無償サポートを終了します。サポートが切れても OS やアプリは当面動作しますが、長期的には複数のリスクが顕在化します。本記事では、**「Windows 10 サポート終了(End of Support, EOS)で何が起こるのか」**を整理し、すでに EOS となった Windows 7 で実際に問題化した脆弱性を例示しながら、移行計画の立て方をご案内いたします。
2. Windows 10 サポート終了の概要
- 最終バージョン:22H2
- 無償サポート終了日:2025 年10月14日
- Microsoft 365 Apps のセキュリティ更新猶予:2028 年10月10日まで
- Extended Security Updates(ESU):1 年単位・最大 3 年間(初年度 個人向け 30 USD の見込み)
- 長期サービスチャネル(LTSC/IoT LTSC):各エディションの独自ライフサイクルが継続
3. サポート終了後に想定されるリスク
3-1. セキュリティリスク
OS の新規脆弱性は原則放置され、ゼロデイ攻撃やランサムウェアの主要な標的になります。ESU を購入しても「緊急・重要」レベルのみが対象で、機能修正は含まれません。
3-2. コンプライアンス違反の可能性
PCI DSS や ISO 27001 など多くの業界基準では、サポート継続中の OS 利用が前提です。EOS 後の Windows 10 を業務ネットワークに残すと監査指摘や保険料加算のリスクが発生します。
3-3. アプリケーション互換性低下
Microsoft 365 Apps は 2028 年まで更新されますが、他社ソフトは Windows 11 以降のみをサポート対象に切り替える傾向があります。将来バージョンを導入できない、あるいは技術サポートを受けられない事態が想定されます。
3-4. ブラウザ・クラウドサービスの将来的な非対応
Edge は ESU 期間中に更新継続予定ですが、Chrome など他ブラウザは早期にサポートを打ち切る可能性があります。OneDrive 同期クライアントや Teams デスクトップ版も順次サポート対象外となる見込みです。
3-5. ハードウェア・周辺機器のドライバ非対応
新しい GPU、Wi-Fi チップ、プリンタなどが Windows 10 用ドライバを提供しないケースが増えます。結果として正常動作しない、ファームウェア更新ツールが実行できない、といった問題が発生します。
3-6. 証明書・暗号化関連の更新停止
Windows Update を介したルート証明書ストアの自動更新が停止すると、将来的に「特定サイトだけ接続できない」「ドライバ署名が無効扱いになる」といったトラブルが起こる可能性があります。
4. Windows 7 で実際に起こった代表的な脆弱性
4-1. EternalBlue(CVE-2017-0144)
- 公開時期:2017 年3月
- 影響:SMBv1 のリモートコード実行。WannaCry・NotPetya ランサムウェア拡散の基盤に。
- 対策:MS17-010 で修正されたものの未パッチ機が大量に残り、医療機関や製造業で甚大な被害が発生。
4-2. BlueKeep(CVE-2019-0708)
- 公開時期:2019 年5月
- 影響:RDP のリモートコード実行。認証不要でワーム化可能。
- 対策:緊急パッチを公開したものの、数百万台が未対策のままインターネット上に公開され続けました。
4-3. CVE-2020-0986(Operation PowerFall)
- 公開時期:2020 年6月
- 影響:印刷スプーラ関連プロセスの権限昇格。韓国企業を狙う標的型攻撃でゼロデイ悪用を確認。
- 対策:ESU 契約者向けにのみパッチ提供。未契約 PC は恒久的に脆弱。
4-4. PrintNightmare(CVE-2021-34527)
- 公開時期:2021 年6月
- 影響:Print Spooler のリモートコード実行+権限昇格。ドメイン権限奪取に直結。
- 対策:危険度の高さから EOS 後の Windows 7 向けにも臨時パッチ KB5004951 を無償提供。ただし手動適用が必要で、更新を見送った組織も少なくありません。
5. リスクを抑える四つの選択肢
選択肢 | 概要 | 想定コスト | メリット | デメリット |
---|---|---|---|---|
Windows 11 へ無償アップグレード | TPM 2.0 などハード要件を満たす PC | 新規ライセンス不要 | 長期サポートと最新機能を享受 | 一部古い周辺機器・アプリが非対応 |
PC を買い替え | 要件非対応 PC を更新 | ハードウェア費 | パフォーマンス向上・保証付き | 初期費用が高額 |
ESU を購入 | 最大 3 年間、重要パッチのみ取得 | 初年度 30 USD/台(予定) | 移行期間を確保可能 | 機能修正なし、費用は毎年増加 |
Linux など別 OS へ移行 | LibreOffice 等で代替 | 学習コスト | 旧 PC の延命が可能 | 業務アプリ資産の互換性検証が必須 |
6. まとめ
Windows 10 のサポート終了は「機能が止まる日」ではなく、「防御力が下がり続ける起点」です。Windows 7 の過去事例から明らかなように、EOS 後も新規脆弱性は継続して発見・悪用されます。移行に必要な時間とコストを早期に見積もり、Windows 11 へのアップグレードまたは ESU 契約による暫定防御を計画的にご検討ください。
参考資料
- Microsoft Learn: Windows 10 Home and Pro Lifecycle Fact Sheet
- Microsoft Learn: Windows 10 end of support and Microsoft 365 Apps
- Microsoft Learn: Extended Security Updates (ESU) program for Windows 10
- Microsoft Security Response Center: CVE-2017-0144 (EternalBlue)
- Microsoft Security Response Center: CVE-2019-0708 (BlueKeep)
- Securelist: Operation PowerFall: CVE-2020-0986 and variants
- Microsoft サポート: KB5004951(PrintNightmare)
- The Verge: Microsoft extends Office app support on Windows 10 to 2028