コンピュータで小数を扱う際、浮動小数点数（float）を使用すると、1 / 3 が 0.3333... となり、厳密な計算ができずに誤差が生じることがあります。
数学的な「分数（有理数）」として正確に値を保持・計算したい場合、Pythonの標準ライブラリである fractions モジュールを使用します。
この記事では、Fraction クラスを使った分数の作成方法と、四則演算の実装例について解説します。
目次
Fraction オブジェクトの作成
fractions モジュールから Fraction クラスをインポートして使用します。
分数は、「分子（numerator）」と「分母（denominator）」を引数に指定して作成します。また、文字列から作成することも可能です。
構文:
from fractions import Fraction
# 方法1: 数値で指定 Fraction(分子, 分母)
f1 = Fraction(1, 3)
# 方法2: 文字列で指定
f2 = Fraction("1/3")
自動的な約分
Fraction は、作成された時点で自動的に約分（簡約）されます。
from fractions import Fraction
# 2/8 は自動的に 1/4 になる
f_reduced = Fraction(2, 8)
print(f"約分結果: {f_reduced}")
実行結果:
約分結果: 1/4
具体的な使用例：レシピの分量計算
例として、料理の材料（カップ単位）を分数で計算するプログラムを作成します。
小麦粉 $\frac{1}{2}$ カップと、砂糖 $\frac{1}{3}$ カップを扱います。
from fractions import Fraction
# 材料の定義
flour_cup = Fraction(1, 2) # 小麦粉 1/2
sugar_cup = Fraction(1, 3) # 砂糖 1/3
print(f"小麦粉: {flour_cup} カップ")
print(f"砂糖: {sugar_cup} カップ")
print("-" * 20)
# 1. 足し算（合計量）
# 通分して計算される (1/2 + 1/3 = 3/6 + 2/6 = 5/6)
total_amount = flour_cup + sugar_cup
print(f"合計: {total_amount} カップ")
# 2. 引き算（差分）
# (1/2 - 1/3 = 3/6 - 2/6 = 1/6)
diff_amount = flour_cup - sugar_cup
print(f"差分: {diff_amount} カップ")
# 3.掛け算（分量の倍増）
# 小麦粉を4倍量にする (1/2 * 4 = 2)
bulk_flour = flour_cup * 4
print(f"小麦粉4倍量: {bulk_flour} カップ")
# 4. 割り算（分配）
# 砂糖を2等分する (1/3 / 2 = 1/6)
split_sugar = sugar_cup / 2
print(f"砂糖2等分: {split_sugar} カップ")
実行結果:
小麦粉: 1/2 カップ
砂糖: 1/3 カップ
--------------------
合計: 5/6 カップ
差分: 1/6 カップ
小麦粉4倍量: 2 カップ
砂糖2等分: 1/6 カップ
このように、通分や約分といった面倒な計算を意識することなく、正確な分数計算が行えます。
分子・分母の取得と型変換
作成した分数オブジェクトから、分子や分母を取り出したり、小数（float）に変換したりすることも可能です。
ratio = Fraction(3, 7)
# 分子の取得 (.numerator)
print(f"分子: {ratio.numerator}")
# 分母の取得 (.denominator)
print(f"分母: {ratio.denominator}")
# 浮動小数点数への変換
print(f"小数値: {float(ratio)}")
実行結果:
分子: 3
分母: 7
小数値: 0.42857142857142855
まとめ
- 正確な数値計算を行うには
fractionsモジュールのFractionクラスを使用します。 Fraction(分子, 分母)で作成し、自動的に約分されます。- 四則演算（
+,-,*,/）をサポートしており、結果もFraction型になります（計算相手がfloatの場合を除く）。 - 確率計算や、比率を維持したい計算などに適しています。
