Djangoアプリケーションの基盤となるのは、models.pyに定義されるデータモデルです。このモデルのフィールド名(データベースのカラム名に相当)は、アプリケーションの可読性、保守性、そして開発効率に直接的な影響を与えます。
もし、フィールドの命名規則に一貫性がない場合、開発者は常にモデル定義ファイルを参照する必要に迫られ、些細なミスやバグを誘発する原因となります。
この記事では、Djangoモデル設計において、なぜ一貫した命名規則が重要なのか、そしてどのようにしてその一貫性を保つべきかについて、具体的な例とともに解説します。
一貫性のない命名が引き起こす問題
プロジェクトの初期段階や、複数の開発者が独自の判断でモデルを拡張していく過程で、命名の「揺れ」が発生しがちです。
例えば、オンラインストアの「商品(Product)」と「レビュー(Review)」、「製造元(Manufacturer)」を管理するモデルを考えてみましょう。
# 規約が統一されていないモデルの例
from django.db import models
from django.conf import settings
class Manufacturer(models.Model):
name = models.CharField("製造元名", max_length=100)
# ... 他のフィールド
class Product(models.Model):
"""
商品モデル
"""
name = models.CharField("商品名", max_length=255)
# ForeignKeyの命名が冗長
manufacturer_obj = models.ForeignKey(
Manufacturer,
on_delete=models.SET_NULL,
null=True
)
# 日付 (Date) の接尾辞が '_dt'
release_dt = models.DateField("発売日")
# 日時 (DateTime) の接尾辞が '_time'
updated_time = models.DateTimeField("最終更新日時", auto_now=True)
# 略語が使われている
prod_type_kbn = models.IntegerField("商品区分", default=1)
class Review(models.Model):
"""
レビューモデル
"""
product = models.ForeignKey(Product, on_delete=models.CASCADE)
# ForeignKeyの命名が役割(過去形)になっている
reviewed_by = models.ForeignKey(
settings.AUTH_USER_MODEL,
on_delete=models.CASCADE
)
# 日時 (DateTime) の接尾辞が '_at'
posted_at = models.DateTimeField("投稿日時", auto_now_add=True)
rating = models.PositiveSmallIntegerField("評価")
このモデル定義には、いくつかの命名に関する問題が混在しています。
1. 推測が困難になる
- 日時は
updated_time(_time)とposted_at(_at)のどちらで終わるのか? - 日付は
release_dt(_dt)なのか? Productから製造元を参照する際、product.manufacturer_objなのか、product.manufacturerなのか?prod_type_kbnのkbnとは何を意味するのか?(おそらく「区分」の略)
開発者は、これらのフィールドにアクセスするたびに、models.pyを開いて正しい名前を確認する作業を強いられます。
2. クエリの記述ミスを誘発する
Productの更新日時でフィルタリングする際、Product.objects.filter(updated_time__gte=...) と書くべきか、updated_at__gte=... と書くべきか混乱します。
また、reviewed_by のような命名は、reviewer(レビューした人)や user(ユーザー)といった命名と混在すると、一貫性を損ないます。
一貫性のある命名規則への改善
これらの問題は、プロジェクトの初期段階で命名に関するシンプルな規約(コーディング規約)を設けることで、容易に防ぐことができます。
先ほどのモデルを、一貫した命名規則に基づいて修正します。
# 命名規則を統一したモデルの例
from django.db import models
from django.conf import settings
from django.utils import timezone
class Manufacturer(models.Model):
name = models.CharField("製造元名", max_length=100)
# ...
class Product(models.Model):
"""
商品モデル (改善後)
"""
name = models.CharField("商品名", max_length=255)
# ForeignKeyは関連モデル名(スネークケース)をそのまま使用
manufacturer = models.ForeignKey(
Manufacturer,
on_delete=models.SET_NULL,
null=True,
related_name="products"
)
# DateFieldの接尾辞は '_on' に統一
released_on = models.DateField("発売日")
# DateTimeFieldの接尾辞は '_at' に統一
created_at = models.DateTimeField("作成日時", auto_now_add=True)
updated_at = models.DateTimeField("最終更新日時", auto_now=True)
# 曖昧な略語を避け、明確な単語を使用
product_type = models.IntegerField("商品種別", default=1)
class Review(models.Model):
"""
レビューモデル (改善後)
"""
product = models.ForeignKey(
Product,
on_delete=models.CASCADE,
related_name="reviews"
)
# ForeignKeyは関連モデル名(user)または役割(reviewer)に統一
reviewer = models.ForeignKey(
settings.AUTH_USER_MODEL,
on_delete=models.CASCADE,
related_name="reviews"
)
# DateTimeFieldの接尾辞は '_at' に統一
posted_at = models.DateTimeField("投稿日時", default=timezone.now)
rating = models.PositiveSmallIntegerField("評価")
改善によって得られるメリット
- 可読性と予測可能性の向上:
- ForeignKey:
product.manufacturerやreview.reviewerのように、直感的に関連データにアクセスできます。 - 日時: 「日時は
_at(created_at,updated_at)、日付は_on(released_on)」というルールが明確であれば、フィールド名を迷わず推測できます。 - 明確な単語:
prod_type_kbnよりもproduct_typeの方が、フィールドの意図が明確に伝わります。
- ForeignKey:
- 開発効率の向上: エディタの補完機能に頼る前に、どのようなフィールド名が存在するかを予測できるため、コーディングの速度と正確性が向上します。
- 保守性の向上: 新しい開発者がプロジェクトに参加した際も、既存の命名規則に従うことで、コードベースの一貫性を維持しやすくなります。
確立すべき命名ガイドラインの例
プロジェクトで採用すべき命名規則の一般的な例をいくつか示します。
- ForeignKey: 関連するモデル名のスネークケース(例:
user,product)を基本とします。もしUserモデルへの関連が複数ある場合(例:作成者と更新者)は、created_by,updated_byのように役割を明確にします。 - DateTimeField:
_at接尾辞で統一します(例:created_at,published_at)。 - DateField:
_on接尾辞で統一します(例:subscription_starts_on)。 - BooleanField:
is_またはhas_から始めます(例:is_active,has_license)。 - 省略語:
kbn(区分),dt(Date/DateTime),num(Number) のような、文脈によって意味が変わる可能性のある省略語は避け、type,category,at,on,countなどの明確な英単語を使用します。
まとめ
モデルのフィールド名は、一度運用が始まると変更が困難になる要素の一つです。
プロジェクトの開始時にチーム全体で一貫した命名規則を定義し、それを遵守することは、将来の開発コストを大幅に削減し、バグが少なく保守しやすいアプリケーションを構築するための重要な投資となります。
