C++のクラス継承において、派生クラスから基底クラスのメンバ関数を呼び出すのは日常的な操作です。通常はBase::func()
のように基底クラス名を明示しますが、Microsoft社のVisual C++コンパイラには、__super
という特別なキーワードが用意されています。
この記事では、この__super
キーワードが何であるか、その使い方、そして標準的なC++での代替手法について詳しく解説します。
__super
キーワードとは?
__super
は、Microsoft Visual C++ (MSVC)コンパイラ固有の言語拡張機能であり、標準のC++には存在しないキーワードです。
その役割は、派生クラスのメンバ関数内から、直接の基底クラスを指し示すことです。これを使うと、基底クラスの名前を直接記述することなく、そのメンバにアクセスできます。
⚠️ 重要な注意点: このキーワードはMSVCでしかコンパイルできません。GCCやClangなど、他のコンパイラではエラーとなるため、コードの移植性を重視するプロジェクトでの使用は避けるべきです。
__super
の基本的な使い方
__super
の使い方は非常にシンプルです。基底クラスのメンバにアクセスしたい箇所で、基底クラス名の代わりに__super
を使用します。
以下に、動物(Animal
)クラスと、そこから派生した犬(Dog
)クラスの例を示します。
#include <iostream>
// 基底クラス
struct Animal {
void makeSound() {
std::cout << "Some generic animal sound" << std::endl;
}
};
// 派生クラス
struct Dog : public Animal {
void bark() {
// __super を使って基底クラスの makeSound() を呼び出す
std::cout << "A dog is about to make a sound..." << std::endl;
__super::makeSound();
}
};
int main() {
Dog myDog;
myDog.bark();
return 0;
}
コードのポイント解説
Dog
クラスのbark
メソッド内で、__super::makeSound()
と記述しています。これにより、コンパイラはDog
の直接の基底クラスであるAnimal
を探し出し、そのmakeSound
メンバ関数を呼び出します。
もし__super
を使わなければ、ここはAnimal::makeSound()
と記述することになります。
標準的な代替手法との比較
__super
は便利に見えるかもしれませんが、前述の通り移植性がありません。標準C++では、より明確で移植性の高い方法が推奨されます。
1. 基底クラス名を直接指定する(推奨)
最も一般的で分かりやすい方法です。どのC++コンパイラでも動作します。
struct Dog : public Animal {
void bark() {
// 基底クラス名を直接指定
Animal::makeSound();
}
};
この方法は、どのクラスのどのメンバを呼び出しているかが一目瞭然であるため、コードの可読性が高まります。
2. using
で別名を定義する
基底クラス名が長かったり、テンプレートで複雑だったりする場合に有効な方法です。
struct Dog : public Animal {
// 基底クラスの別名を定義
using BaseType = Animal;
void bark() {
// 別名を使ってアクセス
BaseType::makeSound();
}
};
この方法は、将来的に基底クラスを変更する必要が生じた際に、using
宣言の一箇所を修正するだけで済むという利点があります。
まとめ
__super
は、Microsoft Visual C++環境下で基底クラスのメンバにアクセスするための、一見便利なキーワードです。基底クラス名を変更した際のリファクタリングが少し楽になるというメリットはあります。
しかし、そのメリットはコードの移植性を完全に失うという大きなデメリットの前では限定的です。
結論として、特別な理由がない限りは、__super
の使用は避け、BaseClassName::member()
のように基底クラス名を明示する標準的な方法を用いることを強く推奨します。それが、誰にとっても読みやすく、どんな環境でも動作する、堅牢なC++コードを書くための基本です。