はじめに
マルチスレッドプログラミングでは、複数のスレッドが、グローバル変数のような共有リソースに同時にアクセスして値を変更しようとすると、データ競合(レースコンディション)が発生し、プログラム全体の整合性が壊れてしまいます。
例えば、あるカウンター変数を2つのスレッドが同時に「読み込み→1増やす→書き込み」という操作を行うと、更新が1回分失われて、最終的な値が期待通りにならない、といった問題が起こります。
この問題を解決するのが「排他制御」です。C++の標準ライブラリ <mutex> で提供されている std::mutex(ミューテックス)を使うことで、共有リソースへのアクセスを一度に一つのスレッドだけに限定(ロック)し、データの整合性を保つことができます。
std::mutex を使った排他制御のサンプルコード
このコードは、共有のカウンター shared_counter を、4つのスレッドがそれぞれインクリメント(1増やす)しようとするものです。std::mutex を使って、カウンターへのアクセスを保護します。
完成コード
#include <iostream>
#include <thread>
#include <mutex>
#include <vector>
using namespace std;
// 1. 共有リソースを保護するためのミューテックスを準備
std::mutex mtx;
int shared_counter = 0;
// 共有リソースを操作するワーカースレッドの処理
void increment_counter() {
for (int i = 0; i < 10000; ++i) {
// 2. mutexをロックする
mtx.lock();
// --- クリティカルセクション ---
// この区間は、一度に一つのスレッドしか実行できない
shared_counter++;
// 3. mutexをアンロックする
mtx.unlock();
}
}
int main() {
// 4つのスレッドを作成し、実行を開始する
vector<thread> threads;
for (int i = 0; i < 4; ++i) {
threads.emplace_back(increment_counter);
}
// 全てのスレッドが終了するのを待つ
for (auto& th : threads) {
th.join();
}
// 最終的なカウンターの値を表示
// 正しく排他制御されていれば、40000になる
cout << "最終的なカウンターの値: " << shared_counter << endl;
return 0;
}
コードの解説
1. std::mutex mtx;
排他制御を行うためのミューテックスオブジェクトを宣言しています。この mtx が、共有リソースへのアクセスの「鍵」の役割を果たします。
2. mtx.lock();
スレッドが共有リソースにアクセスする前に、mtx の .lock() メソッドを呼び出します。
- もし
mtxが他のスレッドによって既にロックされていれば、このスレッドはここで処理を中断し、ロックが解放されるまで待機します。 - ロックされていなければ、
mtxをロック状態にして、次の行に進みます。
3. mtx.unlock();
共有リソースへのアクセスが終わったら、必ず .unlock() メソッドを呼び出して、他の待機しているスレッドのために「鍵」を解放する必要があります。
クリティカルセクション
lock() と unlock() で囲まれた区間を「クリティカルセクション」と呼びます。この区間内のコードは、ミューテックスによって保護され、複数のスレッドから同時に実行されることがなくなります。
もし mutex がなかったら?
もし lock() と unlock() の行をコメントアウトして実行すると、複数のスレッドが同時に shared_counter++ を実行しようとして更新が衝突し、最終的な結果は 40000 よりも少ない、不定な値になってしまいます。
より安全なロック管理 (std::lock_guard)
手動で lock() / unlock() を管理すると、処理の途中で例外が発生した場合などに unlock() が呼ばれず、デッドロックに陥る危険性があります。これを防ぐため、実際には std::lock_guard を使うのが、より安全で一般的な方法です。
void safe_increment() {
for (int i = 0; i < 10000; ++i) {
std::lock_guard<std::mutex> guard(mtx); // スコープに入ると自動でロック
shared_counter++;
} // スコープを抜けると自動でアンロック
}
まとめ
今回は、std::mutex を使って、マルチスレッド環境でのデータ競合を防ぐ、排他制御の基本を解説しました。
- 複数のスレッドからアクセスされる共有リソースには、排他制御が必要。
std::mutexを使い、.lock()と.unlock()でクリティカルセクションを保護する。- より安全な実装のために、
std::lock_guardの利用を検討する。
std::mutex は、マルチスレッドプログラミングにおけるデータの整合性を保つための、最も基本的なツールです。
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