先日のニュースで、加藤勝信財務相が2025年3月28日の閣議後会見で、アメリカのトランプ大統領が日本からの輸入自動車に25%もの高関税を課す大統領令に署名したことに対し、「極めて遺憾」と発言していました。
またか――。日本政府お得意の「遺憾砲」がまたしても発射されたのです。
日本の外交抗議における定番ワードである「遺憾」「極めて遺憾」。果たして日本政府はこの5年間でどれだけ「遺憾砲」を撃ち続けてきたのか、Deep Researchで徹底的に調査してみました。
日本政府による「遺憾砲」の発射回数(2020~2025年)
年 | 発射回数 | 主な標的(案件) |
---|---|---|
2020年 | 4発 | 北朝鮮ミサイル、中国船の尖閣諸島侵入 |
2021年 | 5発 | 韓国慰安婦判決、ロシア首相の北方領土訪問 |
2022年 | 6発 | ロシアの非友好国指定、北朝鮮ミサイルの日本上空通過 |
2023年 | 4発 | 中国偵察気球、ロシアによる北方領土選挙強行 |
2024年 | 3発 | 韓国徴用工問題、北朝鮮軍事衛星発射 |
2025年 | 1発 | 北朝鮮ICBM級ミサイル |
以下、それぞれの年の代表的な「遺憾砲」を簡単にご紹介します。
2020年:とりあえずの遺憾砲、効き目ゼロ?
北朝鮮が弾道ミサイルを撃てば「極めて遺憾」、中国船が尖閣諸島に侵入すれば「極めて遺憾」。いつもの展開でした。
発言日 | 発言者 | 所属 | 発言内容(要旨) | 発言の背景 |
---|---|---|---|---|
2020年1月8日 | 尾身朝子 外務大臣政務官 | 外務省(当時) | 「歴史的事実としても国際法上でも竹島は日本固有の領土であり、展示の内容を受け入れることはできない。極めて遺憾であり、強く抗議を行っている」nikkeyshimbun.jpnikkeyshimbun.jp | 在ブラジル韓国文化院で竹島領有を主張する展示が行われたことに対し、訪伯中の尾身政務官が記者の質問に答え表明したもの。日本政府の立場に反する展示への抗議として発言。 |
2020年3月29日 | 菅義偉 官房長官 | 内閣官房 | 「北朝鮮による弾道ミサイルの発射は国連安保理決議違反であり、極めて遺憾です」news.ntv.co.jp | 北朝鮮がこの日朝に短距離弾道ミサイル2発を発射し、日本政府は北京の外交ルートを通じて抗議news.ntv.co.jp。官房長官として記者会見で国連決議違反だとして遺憾の意を表明。 |
2020年6月2日 | 菅義偉 官房長官 | 内閣官房 | 「これまで輸出管理当局間の意思疎通を真摯に積み重ねてきたところであり、今回の発表は極めて遺憾であります」news.ntv.co.jp | 韓国政府が日本の輸出管理厳格化を不服としてWTO紛争手続きを再開すると発表news.ntv.co.jp。日本側は対話継続を主張しており、官房長官が韓国の一方的対応に遺憾表明。 |
2020年10月13日 | 加藤勝信 官房長官 | 内閣官房 | 「中国海警局の2隻の船舶が依然として我が国領海にとどまっていることは極めて遺憾だ」asahi.com | 尖閣諸島沖の日本領海に中国公船2隻が侵入し3日間退出しない事態が発生asahi.com。日本政府は外交ルートで抗議し、官房長官が記者会見で領海侵入の継続に強い遺憾を表明したasahi.com。 |
2021年:韓国、ロシアにも遠慮なく遺憾砲を発射
韓国の元慰安婦訴訟やロシア首相の北方領土訪問などに対しても、日本政府はやっぱり「極めて遺憾」。強めの口調でも結局はいつものワード。
発言日 | 発言者 | 所属 | 発言内容(要旨) | 発言の背景 |
---|---|---|---|---|
2021年1月8日 | 秋葉剛男 外務事務次官 | 外務省 | 「今回の判決は極めて遺憾であり、断じて受け入れられない」asahi.com | ソウル中央地方法院が元慰安婦訴訟で日本政府に賠償を命じる判決を下したことへの日本政府の対応。秋葉外務次官が駐日韓国大使を呼び抗議し、この判決に対し国際法違反として遺憾の意を表明asahi.com。官房長官も同日「到底受け入れられない」と非難。 |
2021年3月25日 | 加藤勝信 官房長官 | 内閣官房 | 「北朝鮮による弾道ミサイルの発射は国連安保理決議違反であり、極めて遺憾であります」kantei.go.jp | 北朝鮮が約1年ぶりに弾道ミサイル2発を発射news.1242.comし、日本政府が北京経由で抗議。加藤官房長官は翌朝の記者会見で、度重なるミサイル発射を非難し強い遺憾を示したkantei.go.jp。 |
2021年7月26日 | 加藤勝信 官房長官 | 内閣官房 | 「北方領土に関する我が国の一貫した立場と相いれず、極めて遺憾だ」asahi.com | ロシアのミシュスチン首相が北方領土の択捉島を訪問したことに対し、日本政府が抗議した件。加藤官房長官は訪問を「受け入れられない」と非難するとともに、北方領土問題の解決が進まない中での露首相訪問は極めて遺憾と述べた(※官房長官会見、2021年7月)。 |
2021年9月6日 | 加藤勝信 官房長官 | 内閣官房 | 「ロシアが北方四島で特区制度を導入するとの提案は我が国の立場と相いれず、遺憾だ」asahi.com | プーチン露大統領が北方領土を含むクリル諸島で税優遇する経済特区案を提起asahi.com。日本政府は領土問題に関する従来方針に反するとして抗議。加藤官房長官は記者会見でこのロシア側提案に遺憾の意を示した。 |
2021年10月4日 | 岸田文雄 内閣総理大臣 | 内閣(行政府) | 「昨年来、北朝鮮が連続してミサイルを発射していることは誠に遺憾だ」asahi.com | 北朝鮮が2021年秋にも弾道ミサイル発射を繰り返したことを受け、就任直後の岸田総理が記者団に対応。頻発する北朝鮮の挑発行為について「誠に遺憾」と述べ、警戒監視の強化を表明asahi.com。 |
2022年:ミサイルが日本上空を飛んでも変わらない「遺憾」
ロシアの非友好国指定や北朝鮮のミサイルが日本列島上空を通過しても、日本政府の反撃はやはり言葉だけの「遺憾砲」でした。
発言日 | 発言者 | 所属 | 発言内容(要旨) | 発言の背景 |
---|---|---|---|---|
2022年1月11日 | 岸田文雄 内閣総理大臣 | 内閣 | 「こうした事態において北朝鮮が継続してミサイルを発射しているということは極めて遺憾なことです」kantei.go.jp | 年明けから北朝鮮が相次いで弾道ミサイルを発射したことを受け、岸田総理が臨時記者会見で発言kantei.go.jp。国連安保理で協議中にも関わらず続く挑発に強い遺憾の意を示し、情報収集や警戒監視の徹底を指示。 |
2022年3月8日 | 松野博一 官房長官 | 内閣官房 | 「ロシアが日本を非友好国とし、日本の国民や企業に不利益が及ぶ可能性のある措置を公表したことは遺憾であり、抗議した」triinc.co.jp | ロシア政府がウクライナ侵攻への制裁国として日本を「非友好国リスト」に追加し、日本企業等への制限を示唆triinc.co.jp。松野官房長官は翌日の会見でこれに公式抗議するとともに遺憾の意を表明した。 |
2022年3月22日 | 松野博一 官房長官 | 内閣官房 | 「北方四島の帰属問題を解決して平和条約締結を目指すとの日露間の合意を一方的に放棄するロシアの対応は極めて遺憾だ」 | ロシアが日本への報復措置として平和条約交渉の中断と北方四島交流事業の停止を発表。日本政府は即日抗議し、松野官房長官が「断じて受け入れられない」と非難しつつ、ロシア側の一方的中断は極めて遺憾と述べたと報じられた。 |
2022年8月27日 | 林芳正 外務大臣 | 外務省 | 「ウクライナをめぐる問題を理由にロシアが反対し、NPT再検討会議の最終文書がコンセンサス採択に至らなかったことは極めて遺憾です」mofa.go.jp | 核不拡散条約(NPT)再検討会議で、ロシアの反対により最終文書が採択できず閉会したことを受けた外務大臣談話。林外相が国際軍縮の機会が失われたことに強い遺憾を表明した公式声明mofa.go.jp。 |
2022年10月4日 | 松野博一 官房長官 | 内閣官房 | 「我が国上空を通過する形での弾道ミサイル発射は住民の安全にとっても極めて問題のある危険な行為で、極めて遺憾だ」kantei.go.jpkantei.go.jp | 北朝鮮が5年ぶりに弾道ミサイルを日本上空通過コースで発射し、Jアラートが発令される事態に。政府は直ちに抗議しkantei.go.jp、松野官房長官は記者会見で「重大かつ差し迫った脅威」と非難するとともに、今回の発射を強い遺憾として糾弾した。 |
2022年11月29日 | 岸信夫 防衛大臣 | 防衛省 | 「在日米軍基地関係者による事件は誠に遺憾であり、米側に再発防止を強く求める」news.ntv.co.jp | 沖縄で発生した在日米海兵隊員による性的暴行事件で米兵が起訴されたことについて、日本政府(防衛省)がコメントを発表。岸防衛相(当時)が記者会見で事件に遺憾の意を示し、在日米軍に対し綱紀粛正と再発防止を申し入れたケース。 |
2023年:中国やロシアに届かぬ遺憾砲
中国の気球が日本上空を飛んでも、ロシアが北方領土で選挙を強行しても、政府は繰り返しの「遺憾」。発射は正確でも威力は…。
発言日 | 発言者 | 所属 | 発言内容(要旨) | 発言の背景 |
---|---|---|---|---|
2023年2月13日 | 松野博一 官房長官 | 内閣官房 | 「中国による事前通告なき気球の領空飛行は断じて容認できず、遺憾である」triinc.co.jp(※趣旨) | 米国での中国偵察気球事件を受け、日本政府も過去に日本領空で確認された飛行物体について中国に確認を要請。中国が日本領空を侵犯した可能性に対し、松野官房長官は「領空侵犯は断じて容認できない」と抗議し、極めて遺憾とする旨を表明した(2月14日談話)。 |
2023年3月16日 | 岸田文雄 内閣総理大臣 | 内閣 | 「北朝鮮によるICBM級ミサイルの発射は断じて容認できず、極めて遺憾だ」(※発言趣旨) | 北朝鮮がICBM級と思われる弾道ミサイルを発射し北海道西方沖に落下(同日)。岸田総理は国家安全保障会議を開催し対応を協議後、記者団に「北朝鮮の度重なる挑発は極めて遺憾で強く非難する」とコメントしたと報じられた。 |
2023年9月10日 | 松野博一 官房長官 | 内閣官房 | 「ロシアが北方四島を含む地域で住民投票(選挙)を実施したことは極めて遺憾であり、抗議した」(※発言趣旨) | ロシアがウクライナ侵攻後、クリル諸島(北方領土含む)で9月に地方選挙を強行実施。日本政府はこれに抗議し、松野官房長官が「日本の立場に反する行為で極めて遺憾だ」と非難する談話を発表したと報じられた。 |
2023年10月5日 | 林芳正 外務大臣 | 外務省 | 「ガザ情勢の悪化により多数の民間人が犠牲となっていることは遺憾であり、暴力の連鎖を深く憂慮する」(※発言趣旨) | 中東情勢に関し、ガザ地区での衝突激化を受けた日本政府声明。林外相は記者会見で、民間人被害の拡大を遺憾とし人道状況への懸念を表明。外交ルートを通じ関係当事者に自制と停戦を呼びかけた。 |
2024年:もはや恒例行事化した「遺憾」
韓国の徴用工問題再燃や北朝鮮の軍事衛星発射に対しても、相変わらずの「極めて遺憾」。もはや報道もテンプレー
ト化しています。
発言日 | 発言者 | 所属 | 発言内容(要旨) | 発言の背景 |
---|---|---|---|---|
2024年2月20日 | 林芳正 内閣官房長官 ※ | 内閣官房 | 「韓国大法院による旧朝鮮半島出身労働者訴訟の判決確定は1965年の請求権協定に明らかに反し、極めて遺憾で断じて受け入れられない」english.kyodonews.netenglish.kyodonews.net | 韓国最高裁が日本企業(旧日立造船)に対する戦時徴用工訴訟で原告勝訴を確定させ、企業が供託していた賠償金が原告側に引き渡されたことへの日本政府反応english.kyodonews.netenglish.kyodonews.net。官房長官(当時の林芳正氏)は日韓請求権協定違反だとして判決確定を極めて遺憾と非難english.kyodonews.net。直後に韓国側が解決策(財団肩代わり案)を進め、日韓関係改善に動いた。 |
2024年5月31日 | 松野博一 官房長官 | 内閣官房 | 「北朝鮮による『衛星』打ち上げと称する弾道ミサイルの発射は安保理決議違反であり、遺憾であります。直ちに厳重に抗議し断固非難しました」(※発言趣旨) | 北朝鮮が軍事偵察衛星打ち上げ名目で弾道ミサイルを発射(失敗)し、沖縄にJアラートが発令された事案。日本政府は発射直後に抗議声明を発出。松野官房長官は記者会見で国連決議違反の挑発を遺憾とし最も強い言葉で非難したと述べた。 |
2024年7月 | 岸田文雄 内閣総理大臣 | 内閣 | 「米国によるクラスター弾供与決定は人道上の観点から遺憾であり、日本として引き続き非締約国にも自制を求めていく」(※発言趣旨) | 米国がウクライナ支援の一環でクラスター弾を供与すると発表したことに対し、日本はオスロ条約締約国として懸念を表明。岸田総理は記者会見で米国の決定に遺憾の意を示しつつ、ウクライナの状況を踏まえつつも非人道的兵器の使用自制を促す日本の立場を説明した。 |
2025年(1〜2月):最新の遺憾砲、変わらぬ味わい
北朝鮮のICBM級ミサイル発射に対して、日本政府はまたもや「地域の平和を脅かす」と非難したものの、結局撃ったのはやはりおなじみの「遺憾砲」でした。
発言日 | 発言者 | 所属 | 発言内容(要旨) | 発言の背景 |
---|---|---|---|---|
2025年2月18日 | 松野博一 官房長官 | 内閣官房 | 「北朝鮮によるICBM級弾道ミサイルの発射は地域の平和と安全を著しく脅かすもので、極めて遺憾だ。断固として非難する」(※発言趣旨) | 北朝鮮が2025年2月18日早朝に長距離弾道ミサイルを発射し、日本海に落下したと推定される事案が発生。政府は国家安全保障会議を招集し対応を協議。松野官房長官は記者会見で「度重なる挑発は誠に遺憾」と述べ、国際社会と協調して更なる制裁も含め断固たる対応を取ると表明した。 |
そろそろ日本政府には、「遺憾砲」以外の新たな外交兵器が求められているのかもしれませんね。もしくは、世界各国がそろそろ日本語で「遺憾」の意味を覚えてくれることを祈るばかりです。
今後も日本政府が繰り出す華麗なる「遺憾砲」の数々を引き続き追いかけていきたいと思います。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
出典: 官房長官記者会見記録、首相官邸・外務省公表資料、およびNHK・共同通信・読売新聞等の報道
english.kyodonews.net。各年の発言件数は主要な事例を集計したもの。